逆転の発想で考える『新しい時代の働きかた』

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はじめに

この記事は新しい働き方について、新しい切り口から説明しようと試みる記事です。
現在でもすでにいろいろな働きかたがあるとはいえ、働く上で多くの人は「会社に就職」します。
会社にはいろんな人がいて、それぞれが良い関係を築いたり、時にはうまくいかなかったり、働きながらそんな毎日を生きているというわけです。

多数派がそうした働き方である以上「新しい働きかたって何が新しいのだろう?」と思われる方が多いかもしれません。

もしもその疑問に今お答えするなら、本来人同士で結ばれる信頼関係が「人と組織の間で結ばれる」という点で新しい、となります。

例えば会社の人とご飯に行く時のことを考えてみましょう。
同僚にご飯に誘われて「何食べたい?」「僕焼肉好きなんだよね」「え、私も!行こ行こ!」といった具合に合意をとってからご飯に行くようなことがよくあると思います。
他にも、「これお願い!」「いいよー、明日まででいいでしょうか?」「OK!」といったやりとりをして先輩に頼まれた仕事を決めた日までにきっちりこなしたりすると思います。

何気ないことでも、人と人同士ではこういうことの積み重ねが信頼に結びつきます。対等で信じ合える仲になれるということですね。

一方で、これが人と組織の間柄になると、頭によぎるのはもはや信頼ではなく、契約の2文字です。
契約……何か得も言われぬ力に縛られているような感覚に心当たりのある人も多いはずです。

就職してから話が違うと感じる人はなんと2人に1人に迫るというアンケート結果もあります。これって実はすごく良くないことではないでしょうか。「就職 話が違う」などでGoogle検索していただければ、目も当てられない状況に陥っているような方も一定数いることがわかります。

  参考:求人内容と「話が違う」と感じたこと「週休2日制じゃない」「面接時と給与が違う」

日本では(日本に限らないかもしれませんが)、人と人が信頼関係で結ばれることはあっても、人と会社が信頼関係で結ばれることはこれまでそう多くはなかったはずです。

働きながらこっそり転職活動をしたり、辞めることを伝えることが非常に気まずかったり、これらは基本的に人よりも会社の方が上位にある(支配的)であるために起こっていることです。人と会社が対等ではない仲で口先だけの信頼を謳っても、そこには嘘くささが残ってしまうことでしょう。

以下は、すでに先進的なワークスタイルをお持ちの方を除けば、多くの人が「そんな発想があるのか!」と新鮮な感覚を持つことができる内容になります。

*ここまで読んで興味の範囲からはずれるなという方は、少し長めの記事なのでご注意ください。

さて、今回は、これからの時代の働きかたを考えるにあたり、必読とも言える本を紹介します。

ALLIANCE』という本です。

端的に言えば「仕事を通した関係を軸にして人と組織の成長を実現する仕組み」について、日々めまぐるしく変化を続けるシリコンバレーで成功をおさめた起業家たちが書き記した本です。

この本では「相互信頼に基づいた人と企業の関係(=これからの時代の新しい雇用関係)」つまり、「人と組織のアライアンスの結び方」をマネジメントする側の視点から豊富な実例と共に紹介してくれています。アライアンスという言葉からは「企業同士の提携」というイメージをする人が多いと思いますが、この本ではそのイメージとは全く異なる意味で使われている点に気をつけましょう。

この本があなたにとって価値があるかを判断できる参考情報を提供するため、以下、『ALLIANCE 人と企業が信頼で結ばれる新しい雇用』のポイントを簡単にご紹介します。

また、最後に「ヒトをモノとして見る視点からモノをヒトとして見る視点へ」という逆転の発想からアライアンスについて考察してみたいと思います。

曖昧さが生み出す違和感  ~「今」の労働関係の問題点を知る~

労働契約という関係性から現れる「ずれ」

現状として、会社と社員の間には以下のようなずれが生じています。

会社:
(実際にはできないが)いつでも会社の判断でやめさせることができると思っている一方で、会社は必要な間ずっと働いて欲しいと思っている

社員:
採用面接などでは会社への忠誠を語りながら、生活できなくなるリスクを回避するため転職が前提に

簡単に言うと、今の状態は多くの場合、入社した後に「具体的な仕事内容」が決まりがちな「人を雇う会社側の後出しじゃんけん」の状態です。そのために会社と社員の間にいくらかの摩擦が生じていると言えます。

これに対して、アライアンスは入る前に従来よりも明確に業務内容についてお互いに合意を形成することを追求します。それを徹底することで、これまでの労働関係において重視されてこなかったものに自然にフォーカスすることができます。

この違いは『ALLIANCE』の中で以下のようにまとめられています。

かつての労働契約の原則:
社員が会社に忠誠を誓う代わりに対価として雇用主が社員の生涯の生活(家族の生活)を約束する時代
イメージは軍隊において権限を持った「上」に従順な「下」がいるような雇用形態

あたしい雇用関係の原則:
雇用主と社員がお互い相手にどのような価値をもたらすかに基づき期間を定め雇用関係を約束する時代
イメージはプロのスポーツチームにおける運営側と選手のような互恵的な雇用形態

会社と人が新しい関係を築くべき3つの理由

ではなぜ、上下関係が固定するようなかつての働き方を脱却する必要があるのでしょうか。その理由は大きく3つあります。

①今後は組織の中でのメンバーが関わり合いが網目状構造化し、メンバー同士が対等な関係を築く中でそれぞれが「なりたい自分」を目指す時代だから

②変化が激しくなっていく中で、社内で重要となる社員の力は「新しい価値を生み出すために考え動く力」になっていくから

③終身雇用が前提とは言えない時代では同時並行で「複数の事業 / プロジェクトに関わること」がより一般的になっていくから

つまり、先進的な会社ではすでに取り組まれているところもありますが、めまぐるしく状況が変化する中では「事業のビジョンを達成するために一人のメンバーが複数のプロジェクトに関わること」が当たり前になり「一人のメンバーが時にはチームのリーダーとしてみんなを引っ張り、時にはチームの一員としてリーダーを支えること」がいたるところで見られる時代に移りつつあるということです。

①はそうした意味で、近未来のビジネスにおけるチームは、従来の上下関係が固定されたチームとは違っていることを示しています。

そしてそうなってくると、より多くの人が「リーダーとしての役割を担えること」「課題を発見し解決できること」がより大きな成果をあげるために必要になるというロジックで②の理由が出てきます。

また、そのような時代においては、個人の関わる複数のプロジェクトすべてが単一の組織のプロジェクトである必要性はありません。

むしろ複数の組織でリスク(変化が早いために一つの会社が潰れるリスクが高まるという危険など)を分散しておいたほうが生活の安定を図りやすい、という考えが台頭してくると予測することで③のように考えることができるでしょう。

こうした背景を考えると、組織と人を結ぶ関係が、働くという文脈において「信頼関係」という人間どうしの関わり合いにおいて最も本質的な関係の中に包摂されていく未来が見えてきます。

この3つの理由に注目することで、『ALLIANCE』で提示されている雇用関係の重要性に気づくことができるようになるでしょう。

3分でわかる「アライアンスの結び方」 ~適切なコミットメント期間を設定する~

個人と組織がアライアンスを結ぶ際は、事前に「コミットメント( = 双方の目的のために関わりあう)期間」を設定します。

コミットメント期間には大きく3種類あります。

コミットメント期間の種別

①回転型(期間目安:2年前後)
:複数のプロジェクト内の仕事を短期間でローテーションする中でコミットメント期間を設定するタイプ
入社後は多くの人がこのタイプでコミットメント期間を設定し、仕事のノウハウを身につけ成長するための機会として位置付ける

②変革型(期間目安:最大5年)
:組織の中の課題の解決や成長に必要な仕事をプロジェクトとして切り分け、それについての貢献を事前に決めてコミットメント期間を設定するタイプ
決定権を持つ社員との個別交渉によって仕事や給与の内容を決める

③統治型(期間目安:期限なし)
:組織の理念に深く共感している個人が、組織の存続と発展のために永続的な関係を前提にお互いの関係の維持 / 向上に全力を尽くすタイプ
決定権を持つ社員との個別交渉によって仕事や給与の内容を決める

ざっくりですが上記を踏まえて主流と考えられる構成を例に挙げると、まず企業は新人に対して回転型で様々な経験を積める機会を約束します。従来の研修の要素もここに盛り込まれるでしょう。

さらに、大学卒業までにしっかり学ぶべきを学び、何らかの技術を身につけた人には変革型での採用も募集します。様々なことにチャレンジしてきた学生などが報われやすくなるため、学生は大学に行ってからも学習モチベーションを高く保てるだけでなく、実際に働く時のことを考えてもっとしっかり目の前の問題に打ち込むことができるようになるといったプラスの効果も期待できるでしょう。もちろん変革型は転職者を主に募集する枠になるとは思いますが、先述した形で新卒採用にも変化が見えてくるかもしれません。

3つのコミットメントの種別の中では、統治型は特殊です。

コミットメント期間を決める働き方では、その人を終身雇用することは初めから想定されていません。にもかかわらず、統治型がほとんどのケースで期間を定めないのは、そのタイプの社員が会社の理念に深く共感しもはや会社の仕事をライフワークとして捉えて毎日が楽しくて仕方がないという状態にあるからです。その状態で、お互いが真摯にお互いのために働いていると仮定すると、社員が辞めたり会社がクビにしたりする例はほとんど考えることはできないため、あえてコミットメント期間が定められないというわけですね(もちろん、携わるプロジェクトなど案件ごとの期日はあるはずです)。

組織と個人の相性を踏まえて上記の3種類の中からどのタイプを選ぶとしても、アライアンスを結ぶ際は以下のポイントが共通します。これらは書籍の中でも強調されている部分でもあります。

ポイント

  • 期間中の目標を決める
  • 終了時にお互いにもたらされる成果 / 成長の確認を行う
  • 定期的なフィードバックと進捗フォローを行う
  • 状況に応じて柔軟にコミットメント内容を変更する
  • 評価基準としての指標を設定する
  • 良心への訴えを乱用しない
  • 意思疎通をする際は解雇するための対話ではないことを強調する

ヒトが人であることを取り戻すための「アライアンス」

この本で述べられているアライアンスの原則は「社員は会社の成功のために時間とリソースを割き、会社はその社員の市場価値向上のために時間とリソースを投入する」ということです。

しかし、程度に大小様々な差はあるとはいえ、この原則自体はこれまでにも実質として行われてきたことでもあり、今現在もたくさんの会社で当たり前のように行われていることでもあります。

アライアンスを実現するためには、原則に加え、アライアンスの特質としてあげられる「目指す方向の整合性を取れていること」「期間を定めること」「お互いのベネフィットについて合意があること」のいずれも欠けていてはいけません。

これらをベースに関係を築くことから、お互いがお互いのためになすべきをなす『信頼関係』が人と組織を結ぶのであると説明されています。

これは従来の「社員を会社の歯車として捉える雇用」に対するアンチテーゼでもあるように思われます。

これがどういうことかと言うと、資本主義のもとに社会が成熟していく過程で、大量生産 / 大量消費が拡大する中、ヒトは「モノ」として扱われることが多くなりました。そしてその風土は、直接「君たちは歯車だ!」とまでは言わないとしても、現代の多くの日本企業にも強く根付いてしまっているのが実情です(そうではない企業も多くあります)。

たくさんの人が「働く」という文脈で思い悩むのも、そういった背景から、「ヒト」としての自己実現をないがしろにされてしまう傾向にあるからと言えます。

アライアンスはいわゆる「歯車」というメタファーを打ち破り、「モノ」となった「ヒト」が本来の意味で人として働くために必要なスキームではないでしょうか。

少し話は逸れますが、近年、「擬人化」という人でないもののヒト化(ゆるキャラのフナッシーなどが一例)が流行した背景に、このような社会的な傾向(労働における人間性の喪失)もあるのではと感じます。

そうして、労働という営みの中で忘れられた人間性を懐かしむための手段の一つとして、「擬人化」は多くの人々に娯楽として受け入れられやすかったのではないかと、そのように考えることもできそうです。

しかしながら、今日、私たちは人でないものを擬人化して自分たちを慰めている場合ではなく、私たち自身が再び「人として」日々をよりよく生きるために「働き方」を考える必要のある時代に生きていることを認識しなければなりません。そうして「より良い働きかた」を追い求めていく方が楽しいし、もし現状に違和感がある場合は、ぜひ追求すべきです。

人が人らしく働くために最も優先して擬人化すべき対象が組織だとするならば、アライアンスにおいて本来は人と人との関係に使う言葉である『信頼関係』が人と組織を結ぶという意味合いを副題に含めていることにも深く頷くことができます。

あるいは本来は企業と企業を結ぶ言葉である「アライアンス」が『信頼関係』とほぼ同義語として次世代の働き方を提示するこの書籍のタイトルとなっていることにも納得感を持てるかもしれません。

今後、アライアンスという考え方は、『ヒトをモノ(歯車)として見る視点からモノ(組織)をヒトとして見る視点への反転』を促していくことでしょう。

誰かのため / 自分たちのために働く私たちが「人らしく生きる」という人間性を再び手にするために、シリコンバレーという変化の激しい環境で最適化された「アライアンス」という働き方が今後日本においても日本に最適な形で広まっていくと素晴らしいですね。

NPO法人GeniusRootsではそうした『新しい時代の働きかた』のモデルづくりにも日々の活動の中で取り組んでいます。


以上、『ALLIANCE』の中で取り扱われているトピックの中から、主にその重要性に気づくために必要な背景知識と実際にアライアンス的関係を結ぶためのポイントについてお伝えし、最後に簡単な考察を加えました。

会社の立場であっても社員の立場であっても「雇用関係」や「会社を辞めること」あるいは「転職」など今の時代に働く中で生じる様々な状況に関わる人であれば、新しい視点からそれらをポジティブに考えるきっかけをもらえる一冊であると言えるでしょう。

新しい時代の働き方に関心のある方や「今」人生のターニングポイントになるような選択を前に悩んでいる人は一度読んでみてください。本当に実例がたくさん書かれているので、具体的にイメージしやすいです。

読む前とは違った視点で今の社会 / これからの社会の仕組みを捉えられるようになることをお約束します。


ALLIANCE アライアンス―――人と企頼で結ばれる新しい雇用

最後に、この本の目次と今回ピックアップしたトピックを参考までに書き留めておきます。

目次

1ネットワーク時代の新しい雇用
2コミットメント期間を設定しよう
3コミットメント期間で大切なもの
4変革型コミットメント期間を導入する
5社員にネットワーク情報収集力を求める
6ネットワーク情報収集力を育てるには
7会社は「卒業生」ネットワークをつくろう
8「卒業生」ネットワークを活かすには

*今回は1~3章の内容をもとに記事を書かせていただきました。
*余談ですが、『ALLIANCE 人と企業が信頼で結ばれる新しい雇用』の本の表紙タイトルの「ALLIANCE」のCとEの間に、アライアンスとオレンジ色のカタカナで書かれています。
:これがCompanyとEmployeeをつないでいるのかなと推測していますが、実際はどうなのでしょう。気になります。

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